歯肉や歯を支える骨は、一見なにも変わっていないように見えますが細胞レベルでは常に入れ替わっています。髪が伸びたり爪が長くなったりするのと同様で、新しい組織が古い組織と入れ替わっています。これを代謝といいます。
代謝のおかげで、歯肉に傷がつくといったような多少のトラブルは時間をあけると元通りに回復していきます。また歯は薄いゴムのようなシートを間に挟んで骨とつながっています。人間の歯はとても硬いため骨と直接つながってしまうと、噛むときの衝撃が大きすぎて顎の骨が悲鳴を上げてしまいます。そのため、このシートが衝撃を吸収するクッションの役目をしてくれています。これら、歯の周りの歯肉・顎の骨・シートなどのことを歯周組織といいますが、この歯周組織の大敵が細菌です。
話は変わりますが、人間の「くち」というのは体の中の一番最初の入り口です。「くち」は呼吸・発音・食事のための器官ですから、食道や胃といったそこに続く消化器官や鼻腔や気管支といった呼吸器官が繋がります。食べ物や空気が通ることで細菌が入り込み、結果として口の中には何億もの細菌が住み着くようになります。
その細菌の一部は歯にこびりつきます。細菌も生き物ですから、自分たちの仲間を増やそうとします。その時に出される産物によって歯の表面のエナメル質が溶けたり、歯肉の周りの血管を障害したりします。エナメル質が溶けてくると大きな穴ができ、更にその中でまた細菌が繁殖をします。徐々に穴が大きくなり、いよいよ歯の神経まで細菌が到達すると神経が外部に触れて痛み始め、ついには神経組織が死んでしまいます。死んでしまうと体は自分の体の一部としての認識をしなくなるので歯肉が腫れてきたり、歯を支える骨が溶けてきたりします。
一方、歯の周りに住み着いた細菌を取り除こうと体も血管と血流を増やして防衛軍である白血球を送り込もうとしますが細菌の攻撃に負けてしまい、代謝だけでは回復できなくなります。
そうなると、歯肉や骨といった自分の体の一部を溶かして、細菌から逃げるように距離を取ろうとします。歯周組織は歯を支える力を失うまで衰えてしまい、歯肉が痩せて最終的に歯がグラグラと動くようになっていきます。
組織誘導再生療法とは?
組織誘導再生療法(GTR)は、特別なバリア膜を使用して歯槽骨や歯周組織の再生を助ける方法です。この膜は、不要な組織の成長を防ぎながら、代謝を助けて必要な新しい骨や組織の成長を刺激します。これにより、健康な歯周組織の構造が再生されます。
根面被覆術とは?
根面被覆術は、歯肉がやせて歯の根が露出することにより生じる知覚過敏症や見た目の問題を改善するための治療法です。この手法では、薄く切った歯肉を持ち上げて露出した歯根を覆うことで、露出を解消します。これにより、露出した面が虫歯になりにくくなるなどの機能面での安定性と見た目の美しさを回復し、保つことができます。
結合組織移植術とは?
結合組織移植術は、歯肉退縮による歯根露出を修復するための方法です。この手術では、患者の口の別の部分から組織を採取し、歯根露出部に移植します。これにより、歯肉の厚みと健康が回復します。
組織誘導再生療法
一般的な治療では、ぐらついたりやせてしまったりする原因の細菌やその住み家を取り除いてきれいにするだけで終わっていました。
これだと、破壊されてなくなってしまった歯周組織は回復されないままです。
しかし近年、バイオテクノロジーや治療技術が進歩して状況を選んで治療を行えば、喪失した組織の回復と改善を図ることが可能になってきました。言うなれば時計の針の逆回しをして、悪化する以前の状態へと戻すのです。
リグロス®やエムドゲイン™、M-MIST、VISTAテクニックなどという手法がこれに当たります。
これらは一般的には手術療法で、さらに場合によっては歯の位置関係も改善する、つまり矯正歯科や被せもので直したりする治療と組み合わせなければならない場合もあります。
人によって個性があるのと同じように、歯周組織の破壊程度は個人差があるので症状が似ているからと言って治療法と治療結果が全く同じになることはありません。現在の状態等を踏まえて診査をし、判断した上で提案をさせていただきます。
根面被覆術・結合組織移植術
冷たいお茶や温かい食べ物で歯がズキッとしみたことはありませんか。
一瞬の鋭い痛みやしみる感じを「知覚過敏(正確には象牙質知覚過敏症)」と呼びます。「うわ、虫歯か?!」と思われて、診てほしいと来院されることも珍しくないほど歯医者さん的には「あるある」な症状です。最近は、「しみる〜!」という言葉が象徴的な知覚過敏用の歯磨き剤CMもあるくらいなので、あまり虫歯ですか?という問い合わせは多くないのですが、それにかわって、「これは歯周病ですか?」という問い合わせも増えてきています。
歯周病による症状の一つに、確かに知覚過敏はありますが、一般的にみて歯周病が原因の知覚過敏はそう多くはありません。知覚過敏は歯がすり減ったり削れる(摩耗)ことによって歯の神経に近い部分と外気が触れやすくなって刺激を感じたり、歯を覆っている歯肉が痩せて(歯肉退縮)本来隠れている歯の根元付近が露出することで刺激が神経に伝わりやすくなり感じることがほとんどです。このうち、前者の摩耗による知覚過敏は、知覚過敏防止用歯磨き剤や歯の表面のコーティング剤がうまく効いてくれて症状もすぐに落ち着きますが、後者の歯肉退縮はこれらの方法だけではなかなか改善が見込めません。
そもそもどうして歯茎は減ってなくなるのでしょうか?
これについては、いろいろな説がありました。特に私が大学を卒業した2000年代初頭には、かみ合わせが原因だろうとされていました。
しかしいろいろな検証が進み、この説は根拠として弱い(もしくは不十分)だと現在では認識されており、今は有力な原因として過剰な歯磨きによる副作用ということが挙げられています。したがってこの歯磨き方法を直さないことには、知覚過敏が落ち着くことはないということになります。摩耗による知覚過敏では効果的な材料も、過剰な歯磨きが相手だとすぐに取れてしまって効果が現れにくいことも納得できます。
アジア系、特に日本人女性は元来歯肉の厚みが他の人種に比べて薄く、退縮がさらに進みやすい傾向にあるので磨き方を変えただけではなかなか改善が見込めない場合、歯肉の厚みを増やして形態的に元通りにする治療が必要です。それが結合組織移植による根面被覆術です。上顎の歯の内側から歯肉(上皮下結合組織)を採取して、なくなった部分に貼り付けることで歯肉を増やして露出した歯の根元を覆う外科的な手法ですが、先述の通り人種的に歯肉が薄いため移植する結合組織に増殖因子(生物学的製剤)を塗布したりコラーゲン製剤を追加してボリュームアップを図ったり、とあの手この手で喪失した歯肉を増やします。一連の処置はすべて歯科用実体顕微鏡を用いて行います。やや時間はかかりますがそのぶん痛みや出血が少なくて済み、身体にかかるダメージが少ないというメリットもあります。
もちろん、歯がしみるという程度で手術なんて!という方も多いのは事実ですが、この知覚過敏を引き起こす歯肉退縮に対して長期的に維持できる最終的な治療法は手術療法しかないとアメリカ歯周病学会も結論づけている方法です。水がしみたりして気になる部分があるという場合は、お気軽にお問い合わせください。